その日は、久々に静かな天界の朝だった。
怪我を負ってしばらく床に伏していた私は、ようやく体が動くようになり、寝台から立ち上がる。まだ本調子とは言えないものの、羽も少しずつ動くようになり、魔力の循環も感じられる。
「ふぅ……もう心配をかけるような状態では、ないはずですね……」
私は、誰もいない天界の広場をゆっくりと歩く。まだ、鈍い痛みは残っているが、油断さえしなければ大丈夫――そう思っていた。
「……よぉく休めたみたいなのだ?ウィル?」
その声が背後から聞こえた瞬間、私は空気が凍ったような錯覚にとらわれた。
「マオ……!」
振り返ると、そこには、あの憎き魔王
「マオ」が立っていた。
どこから入り込んだのか、警戒網をすり抜けて現れたマオは、いつものように飄々と笑っていた。
「ワガハイが来たってことは……察してるのだ? 回復途中の大天使サマを襲う絶好のタイミング、なのだ!」
「貴様……! ここで何を――ッ!」
言い終わるより早く、マオの手が私の額に触れる。
その手は妙に冷たくて、そして妙に――優しかった。
「ん〜……ま、ワガハイなりに気をつかってやってるのだ。いまどき直接●すのは野暮なのだね。代わりに……」
マオの手が淡く光ったかと思うと、ぐにゃりと視界が歪む。
「今回は〜、“じわじわ系”の呪いをプレゼント、なのだ。体のステータス、ぜ〜んぶ幼児なみにしてやったのだ。あ、しゃべり方とかは今のままで残しといたげる!ギャップ萌え、ってやつなのだ!」
「なっ……!? くっ……ッ!」
抵抗しようと魔力を込めた瞬間、背中に激痛が走る。下半身が何故か温かく湿る。
羽が……出ない。
魔力が……足りない。
「うぅっ……! まさか、おむ…っ」
「ワガハイの呪い、なめるでないのだ。おとなしく、そのちいさ〜いカラダで……園児ライフでも楽しんでくるのだ!」
悪魔の笑みを浮かべて、マオはそのままふわりと天界から姿を消す。
残されたわたしは、息を切らしながら、広場に手をついて崩れ落ちる。
からだが、おもい。ちからが入らない。
私の肉体は、信じられないほどに小さくなっていた。
しまいには、悪魔のようなツノと牙。外そうにも痛みが走り外すことができない。
まるでふざけたコスプレのようだった。
「こんな……ばかな……!」
だが、それは現実だった。
そして……この呪いが、どれほど私の尊厳を踏みにじるのかを、このときの私はまだ、知らなかった。
続く⸻
ウィルにかけられたデバフを詳しく
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