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渦巻トグロウ - スペア人間 No.453440
About This Title
幼少期から人当たりがよく、明るく快活で、幼児から高校生ほどの年代までの子供から自然と慕われる性格であった。誰かに頼られれば放っておくことができず、相手の立場を考えながら世話を焼くことにも慣れていた。向けられた好意に対しても照れ隠しをしたり距離を置いたりするより、素直な好意で応える傾向が強く、人との関係を親しみのあるものとして受け入れることが、本人にとってごく自然な振る舞いとなっていた。
恋愛に関しては惚れやすい一面があり、高校二年生のころには三年生の先輩へ片想いをしていた。その先輩が大学の薬学部へ進学することを知ったことが、対象個体自身も薬剤師を目指すきっかけとなった。憧れていた相手と同じ道を歩みたいという思いから薬学部への進学を決意し、一浪を経て上京後にその進路を実現している。もっとも、その恋が成就することはなく、大学を卒業するまでに二人の関係が恋愛へ発展することもなかった。それでも対象個体は、失恋したからといって人を好きになること自体を避けるようにはならなかった。高嶺の花と思える相手や、周囲から見ればどう考えても相性がよくなさそうな相手に惹かれては、告白するところまで踏み切れないまま相手に恋人ができるなど、幾度かの失恋を経験している。それでも次に気になる人物が現れれば、また素直に惹かれてしまう。その繰り返しも含めて、人とのつながりを求めることに対して臆病にならない人物であった。
職業・身分など:病院薬剤師薬剤師国家試験に合格した後は病院薬剤師となり、現在の勤務先は二つ目の職場である。五年目を迎えた現在では、処方箋の内容を確認し、薬剤を調剤し、患者へ服薬指導を行うことはもちろん、医師や看護師をはじめとする他職種との連携にも十分に慣れている。明るく親しみやすい人柄もあって、患者から相談を受けることも多く、職員から仕事を頼られる場面も少なくない。
出身地:徳島県高校卒業まで地元で暮らし、大学進学を機に上京。地元で過ごした年月が長かったこともあり、上京後も故郷への親しみを持ち続けている。
最近のマイブーム:トレッキング仕事以外では、近年になってトレッキングを楽しむようになっている。もともとは女性のソロキャンプブームに影響されてアウトドアへ興味を持ち、道具を揃えてキャンプ場へ足を運ぶうちに、自然の中で過ごすことそのものに楽しさを感じるようになった。やがて興味は登山へ移り、誰かと予定を合わせる必要もなく、自分の体力や気分に合わせて行き先を決められる気楽さを知ってからは、一人で山へ出かけることも増えていった。
【序】対象個体は病院薬剤師として五年目を迎えた女性である。連休のさなかにも勤務を続け、処方箋を確認し、薬剤を揃え、患者へ必要な説明を行い、医師や看護師と自然に連携していた。白衣の感触も、薬品と消毒液の混じった匂いも、薬剤部へ続く廊下の足音も、五年間の勤務を通して意識する必要のない日常となっている。明朗で思いやりがあり、仕事にも実直な彼女にとって、病院で働くことは特別な行為ではなく、自分自身を形作る生活そのものであった。
その勤務先には、組織が怪人化の対象として選定した医師がいた。彼女はその医師と日常的に接し、院内の事情にも詳しい。そのため、人間の協力者として利用する価値は十分にあったはずである。だが組織が選んだのは、知識や人間関係だけを借りる方法ではなかった。仕事を終えて病院を出たところを襲われ、意識を取り戻したときには見慣れない場所へ運ばれていたのである。
白衣も名札も、薬剤部で使っていた道具もそこにはない。周囲の者は彼女を薬剤師としてではなく、これから別の役割へ組み替えられる対象として扱っている。それでも、状況を整理し、周囲を観察し、逃れる方法を探そうとする思考だけは以前のままであった。だからこそ、目の前に用意された黒い戦闘員用の装束と手袋、ブーツ、腰へ固定する装備を見たとき、自分がここへ連れてこられた理由を具体的に理解する。五年間かけて身につけたものは失わせるためではなく、別の用途へ転用するために保存されようとしていたのである。
そこへ同世代ほどの女戦闘員たちが歩み寄ってくる。彼女たちはすでに黒い装束へ身体を収め、手足の先まで同じ形に整え、赤と青の彩色を顔に施している。その姿には威圧のための特別な演出よりも、毎日繰り返してきた身支度だけが持つ自然さがあった。自分とは無関係だったはずの姿を彼女たちは当然のように身につけ、互いの装備を確認しながら立っている。対象個体だけが私服のまま取り残されていることで、彼女たちとの距離がかえって鮮明になる。そして、これから自分も同じ姿へ整えられるのだという予感が、用意された装束を見るより先に身体へ迫ってくるのである。
【破】着替えが始まると、対象個体の戸惑いとは無関係に工程だけが進んでいく。女戦闘員たちは身体の向きを変え、腕や脚を通す位置を整え、黒い生地を必要な箇所へ正確に収めていく。そこには乱暴さよりも、何度も同じ作業を繰り返してきた者の手慣れた正確さがあった。自分で衣服を選び、自分で袖を通してきたこれまでの着替えとは違い、今は身体の位置まで他者の手によって決められている。衣服を着るという日常的な行為そのものが、本人の意思から切り離された工程へ変わっていた。
黒い装束が身体へ収まるにつれて、感触が一つにまとまっていく。生地には余分な隙間がほとんどなく、肩から腕、背から腰、脚へ続く線を途切れなく追ってくる。少し身じろぎするだけでも張った箇所が引かれ、動きを止めればすぐに元の位置へ戻ろうとする。その反応によって、自分が動いたという事実が衣服を通して遅れなく返ってくる。私服のように身体から離れて揺れるものではない。身体の輪郭をなぞったまま動作へ追随し、動けば伸び、止まれば密着した状態へ戻る黒い層が、皮膚のすぐ外側に新しく生まれていた。
手袋とブーツ、腰の装備まで整えられると、その感覚は全身へつながる。薬剤を扱ってきた手も、病院の廊下を歩いてきた足も、今は黒い装備の内側へ収まっている。腕を曲げれば手袋が指に沿い、歩けばブーツの硬さが足裏へ返る。腰には装備の重みが加わり、上体を動かすたびに固定された位置が意識される。身体を覆っているものが単なる外見ではなく、動作のたびに存在を知らせてくるものへ変わったことで、対象個体は自分の姿を外から眺める前に、まず身についた黒さを内側から感じるようになる。
それでも顔だけは素肌のままであった。鏡の中では、黒く統一された全身の中央に以前の自分だけが残り、それがかえって強い違和感を生んでいる。女戦闘員たちは髪を整え、顔の位置を確認し、彩色の準備を進める。最初の筆が肌へ触れると、衣服によって外側から形を変えられてきた過程へ、今度は直接肌へ加えられる変化が重なる。赤が額から鼻筋へ伸び、青が頬へ広がる。筆先が肌の上を進むたびに、素顔だった頃の印象が少しずつ薄れ、隣にいる女戦闘員たちと同じ色彩が顔の上へ定着していく。
工程が終わっても、女戦闘員たちは特別な反応を見せない。まず顔を確認し、続いて肩や腰の位置を確かめ、装備の収まりを順に見ていく。最後には少し離れた位置から全身を眺め、他の者と並べたときに違和感がないかを確認する。その視線にさらされて初めて、対象個体は自分の姿がすでに完成していることを具体的に意識する。自分にとっては人間としての姿を失う決定的な変化であっても、彼女たちにとっては新しく加わる者の身支度を仕上げる、ごく日常的な確認なのである。
【急】彩色と着装を終えた対象個体は、女戦闘員たちと並んで鏡の前に立つ。最初に目へ入るのは、以前と変わらない顔の造作である。目も鼻も口元も、病院で患者や同僚と接していた頃のままである。それなのに、顔へ施された赤と青、全身を統一する黒い姿、手足を覆う装備、腰に据えられた組織の意匠が揃うことで、素顔だった頃にはなかった一つのまとまりが生じている。鏡の中には別人が立っているのではない。見慣れた本人が、そのまま戦闘員として完成した姿で立っているのである。
女戦闘員たちはその姿を一人ずつ確かめていく。正面から見て顔の彩色が左右で崩れていないかを確認し、視線を下げて装束の輪郭を追い、腰の装備が所定の位置にあることを確かめる。続いて横を向かせ、肩から腰、脚へ続く黒い線が乱れていないかを見る。背を向けさせれば、後ろから見た姿まで同じ型に収まっているかを確認する。本人には些細に思えない一つ一つの確認が、女戦闘員たちにとっては完成した仲間を迎えるための当然の手順として淡々と進められていく。
最後に対象個体は、すでに完成している女戦闘員たちの列へ並ばされる。そこで改めて全身を見渡すと、先ほどまで自分との間にあった違いがほとんど残っていない。同じ黒い姿が並び、同じ赤と青が顔を彩り、同じ意匠が腰に置かれている。年齢も大きく離れていないため、鏡の中では一人だけが新しく加わったことさえ分かりにくい。素顔を残していたときには明確だった境界が、完成した姿の中では外見上ほとんど消えているのである。
その確認の最中、対象個体の返答に短い戦闘員特有の発声が混じる。本人はその異変を意識するが、女戦闘員たちは作業の手を止めない。むしろ顔の彩色と全身の装備が整ったことを確認したうえで、その反応まで含めて完成した姿として受け入れている。対象個体が一人の人間として抱いている違和感と、彼女たちが新しい仲間として見ている認識との間には、まだ大きな隔たりがある。しかし外側から見れば、その隔たりを示すものはすでにほとんど残されていない。
薬剤師としての知識も、患者を気遣う習慣も、明朗な性格も消えてはいない。組織が必要としたのは、それらを破壊することではなく、五年間かけて形成された人間としての能力を保存したまま別の役割へ移すことであった。その結果、病院で培った専門性を持つ女性は、同時に組織の一員として確認される存在になったのである。人間として積み上げてきたものが失われたのではなく、それらすべてを抱えた本人が戦闘員の列へ加えられている。
鏡の前で最後に行われるのは、特別な儀式でも大きな変化でもない。ただ完成した姿をもう一度確認し、隣に立つ者と見比べ、組織が定めた姿に過不足なく収まっていることを確かめるだけである。けれど、その何気ない確認によって、対象個体自身にも現実が突きつけられる。黒い姿も、赤と青の顔も、腰の装備も、すべてがすでに自分の姿として鏡の中に存在している。人間だった頃の姿を残したまま、それとは別の所属を示す外見が完成しているのである。
隣に立つ女戦闘員たちは、完成した対象個体を特別視しない。それは彼女たち自身が毎日確認している姿と同じだからである。その自然さを前にして、対象個体だけが鏡を見つめ続ける。そこに映っているのは、病院で働いていた薬剤師の面影を失った別人ではない。五年間の経験も、人間としての性格も、そのまま残した女性でありながら、同世代の女戦闘員たちと同じ姿として完成を確認された、一人の新しい戦闘員なのである。
幼少期から人当たりがよく、明るく快活で、幼児から高校生ほどの年代までの子供から自然と慕われる性格であった。誰かに頼られれば放っておくことができず、相手の立場を考えながら世話を焼くことにも慣れていた。向けられた好意に対しても照れ隠しをしたり距離を置いたりするより、素直な好意で応える傾向が強く、人との関係を親しみのあるものとして受け入れることが、本人にとってごく自然な振る舞いとなっていた。
恋愛に関しては惚れやすい一面があり、高校二年生のころには三年生の先輩へ片想いをしていた。その先輩が大学の薬学部へ進学することを知ったことが、対象個体自身も薬剤師を目指すきっかけとなった。憧れていた相手と同じ道を歩みたいという思いから薬学部への進学を決意し、一浪を経て上京後にその進路を実現している。もっとも、その恋が成就することはなく、大学を卒業するまでに二人の関係が恋愛へ発展することもなかった。それでも対象個体は、失恋したからといって人を好きになること自体を避けるようにはならなかった。高嶺の花と思える相手や、周囲から見ればどう考えても相性がよくなさそうな相手に惹かれては、告白するところまで踏み切れないまま相手に恋人ができるなど、幾度かの失恋を経験している。それでも次に気になる人物が現れれば、また素直に惹かれてしまう。その繰り返しも含めて、人とのつながりを求めることに対して臆病にならない人物であった。
職業・身分など:病院薬剤師薬剤師国家試験に合格した後は病院薬剤師となり、現在の勤務先は二つ目の職場である。五年目を迎えた現在では、処方箋の内容を確認し、薬剤を調剤し、患者へ服薬指導を行うことはもちろん、医師や看護師をはじめとする他職種との連携にも十分に慣れている。明るく親しみやすい人柄もあって、患者から相談を受けることも多く、職員から仕事を頼られる場面も少なくない。
出身地:徳島県高校卒業まで地元で暮らし、大学進学を機に上京。地元で過ごした年月が長かったこともあり、上京後も故郷への親しみを持ち続けている。
最近のマイブーム:トレッキング仕事以外では、近年になってトレッキングを楽しむようになっている。もともとは女性のソロキャンプブームに影響されてアウトドアへ興味を持ち、道具を揃えてキャンプ場へ足を運ぶうちに、自然の中で過ごすことそのものに楽しさを感じるようになった。やがて興味は登山へ移り、誰かと予定を合わせる必要もなく、自分の体力や気分に合わせて行き先を決められる気楽さを知ってからは、一人で山へ出かけることも増えていった。
【序】対象個体は病院薬剤師として五年目を迎えた女性である。連休のさなかにも勤務を続け、処方箋を確認し、薬剤を揃え、患者へ必要な説明を行い、医師や看護師と自然に連携していた。白衣の感触も、薬品と消毒液の混じった匂いも、薬剤部へ続く廊下の足音も、五年間の勤務を通して意識する必要のない日常となっている。明朗で思いやりがあり、仕事にも実直な彼女にとって、病院で働くことは特別な行為ではなく、自分自身を形作る生活そのものであった。
その勤務先には、組織が怪人化の対象として選定した医師がいた。彼女はその医師と日常的に接し、院内の事情にも詳しい。そのため、人間の協力者として利用する価値は十分にあったはずである。だが組織が選んだのは、知識や人間関係だけを借りる方法ではなかった。仕事を終えて病院を出たところを襲われ、意識を取り戻したときには見慣れない場所へ運ばれていたのである。
白衣も名札も、薬剤部で使っていた道具もそこにはない。周囲の者は彼女を薬剤師としてではなく、これから別の役割へ組み替えられる対象として扱っている。それでも、状況を整理し、周囲を観察し、逃れる方法を探そうとする思考だけは以前のままであった。だからこそ、目の前に用意された黒い戦闘員用の装束と手袋、ブーツ、腰へ固定する装備を見たとき、自分がここへ連れてこられた理由を具体的に理解する。五年間かけて身につけたものは失わせるためではなく、別の用途へ転用するために保存されようとしていたのである。
そこへ同世代ほどの女戦闘員たちが歩み寄ってくる。彼女たちはすでに黒い装束へ身体を収め、手足の先まで同じ形に整え、赤と青の彩色を顔に施している。その姿には威圧のための特別な演出よりも、毎日繰り返してきた身支度だけが持つ自然さがあった。自分とは無関係だったはずの姿を彼女たちは当然のように身につけ、互いの装備を確認しながら立っている。対象個体だけが私服のまま取り残されていることで、彼女たちとの距離がかえって鮮明になる。そして、これから自分も同じ姿へ整えられるのだという予感が、用意された装束を見るより先に身体へ迫ってくるのである。
【破】着替えが始まると、対象個体の戸惑いとは無関係に工程だけが進んでいく。女戦闘員たちは身体の向きを変え、腕や脚を通す位置を整え、黒い生地を必要な箇所へ正確に収めていく。そこには乱暴さよりも、何度も同じ作業を繰り返してきた者の手慣れた正確さがあった。自分で衣服を選び、自分で袖を通してきたこれまでの着替えとは違い、今は身体の位置まで他者の手によって決められている。衣服を着るという日常的な行為そのものが、本人の意思から切り離された工程へ変わっていた。
黒い装束が身体へ収まるにつれて、感触が一つにまとまっていく。生地には余分な隙間がほとんどなく、肩から腕、背から腰、脚へ続く線を途切れなく追ってくる。少し身じろぎするだけでも張った箇所が引かれ、動きを止めればすぐに元の位置へ戻ろうとする。その反応によって、自分が動いたという事実が衣服を通して遅れなく返ってくる。私服のように身体から離れて揺れるものではない。身体の輪郭をなぞったまま動作へ追随し、動けば伸び、止まれば密着した状態へ戻る黒い層が、皮膚のすぐ外側に新しく生まれていた。
手袋とブーツ、腰の装備まで整えられると、その感覚は全身へつながる。薬剤を扱ってきた手も、病院の廊下を歩いてきた足も、今は黒い装備の内側へ収まっている。腕を曲げれば手袋が指に沿い、歩けばブーツの硬さが足裏へ返る。腰には装備の重みが加わり、上体を動かすたびに固定された位置が意識される。身体を覆っているものが単なる外見ではなく、動作のたびに存在を知らせてくるものへ変わったことで、対象個体は自分の姿を外から眺める前に、まず身についた黒さを内側から感じるようになる。
それでも顔だけは素肌のままであった。鏡の中では、黒く統一された全身の中央に以前の自分だけが残り、それがかえって強い違和感を生んでいる。女戦闘員たちは髪を整え、顔の位置を確認し、彩色の準備を進める。最初の筆が肌へ触れると、衣服によって外側から形を変えられてきた過程へ、今度は直接肌へ加えられる変化が重なる。赤が額から鼻筋へ伸び、青が頬へ広がる。筆先が肌の上を進むたびに、素顔だった頃の印象が少しずつ薄れ、隣にいる女戦闘員たちと同じ色彩が顔の上へ定着していく。
工程が終わっても、女戦闘員たちは特別な反応を見せない。まず顔を確認し、続いて肩や腰の位置を確かめ、装備の収まりを順に見ていく。最後には少し離れた位置から全身を眺め、他の者と並べたときに違和感がないかを確認する。その視線にさらされて初めて、対象個体は自分の姿がすでに完成していることを具体的に意識する。自分にとっては人間としての姿を失う決定的な変化であっても、彼女たちにとっては新しく加わる者の身支度を仕上げる、ごく日常的な確認なのである。
【急】彩色と着装を終えた対象個体は、女戦闘員たちと並んで鏡の前に立つ。最初に目へ入るのは、以前と変わらない顔の造作である。目も鼻も口元も、病院で患者や同僚と接していた頃のままである。それなのに、顔へ施された赤と青、全身を統一する黒い姿、手足を覆う装備、腰に据えられた組織の意匠が揃うことで、素顔だった頃にはなかった一つのまとまりが生じている。鏡の中には別人が立っているのではない。見慣れた本人が、そのまま戦闘員として完成した姿で立っているのである。
女戦闘員たちはその姿を一人ずつ確かめていく。正面から見て顔の彩色が左右で崩れていないかを確認し、視線を下げて装束の輪郭を追い、腰の装備が所定の位置にあることを確かめる。続いて横を向かせ、肩から腰、脚へ続く黒い線が乱れていないかを見る。背を向けさせれば、後ろから見た姿まで同じ型に収まっているかを確認する。本人には些細に思えない一つ一つの確認が、女戦闘員たちにとっては完成した仲間を迎えるための当然の手順として淡々と進められていく。
最後に対象個体は、すでに完成している女戦闘員たちの列へ並ばされる。そこで改めて全身を見渡すと、先ほどまで自分との間にあった違いがほとんど残っていない。同じ黒い姿が並び、同じ赤と青が顔を彩り、同じ意匠が腰に置かれている。年齢も大きく離れていないため、鏡の中では一人だけが新しく加わったことさえ分かりにくい。素顔を残していたときには明確だった境界が、完成した姿の中では外見上ほとんど消えているのである。
その確認の最中、対象個体の返答に短い戦闘員特有の発声が混じる。本人はその異変を意識するが、女戦闘員たちは作業の手を止めない。むしろ顔の彩色と全身の装備が整ったことを確認したうえで、その反応まで含めて完成した姿として受け入れている。対象個体が一人の人間として抱いている違和感と、彼女たちが新しい仲間として見ている認識との間には、まだ大きな隔たりがある。しかし外側から見れば、その隔たりを示すものはすでにほとんど残されていない。
薬剤師としての知識も、患者を気遣う習慣も、明朗な性格も消えてはいない。組織が必要としたのは、それらを破壊することではなく、五年間かけて形成された人間としての能力を保存したまま別の役割へ移すことであった。その結果、病院で培った専門性を持つ女性は、同時に組織の一員として確認される存在になったのである。人間として積み上げてきたものが失われたのではなく、それらすべてを抱えた本人が戦闘員の列へ加えられている。
鏡の前で最後に行われるのは、特別な儀式でも大きな変化でもない。ただ完成した姿をもう一度確認し、隣に立つ者と見比べ、組織が定めた姿に過不足なく収まっていることを確かめるだけである。けれど、その何気ない確認によって、対象個体自身にも現実が突きつけられる。黒い姿も、赤と青の顔も、腰の装備も、すべてがすでに自分の姿として鏡の中に存在している。人間だった頃の姿を残したまま、それとは別の所属を示す外見が完成しているのである。
隣に立つ女戦闘員たちは、完成した対象個体を特別視しない。それは彼女たち自身が毎日確認している姿と同じだからである。その自然さを前にして、対象個体だけが鏡を見つめ続ける。そこに映っているのは、病院で働いていた薬剤師の面影を失った別人ではない。五年間の経験も、人間としての性格も、そのまま残した女性でありながら、同世代の女戦闘員たちと同じ姿として完成を確認された、一人の新しい戦闘員なのである。
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